藤井聡 京都大学大学院教授のメルマガより

「自分の周りに、消費増税の問題を伝えようとしても、
なかなか、伝わらない。
どうしたらいいでしょう?」

という切実なご質問を、
いくつかいただきました。

その折りには、やはり、

「デフレの時の増税は、大変なダメージをもたらす。
過去の97年増税、14年増税も共にデフレだったから、
やはり、激しく消費が減って、経済が成長できなくなった。
今はまだ、デフレだし、特に今は、世界経済の先行きも不透明。

こんな時に増税をすると、経済はさらに低迷し、
挙げ句に97年の時にそうであったように、
総税収自体が縮小し、財政を悪化させます」

と話をするのが、第一だと思います。

ですが、増税が必要だと思っている人は、
この程度の質問ではなかなか引き下がりません。

あれやこれやと、
質問をぶつけてくるものと思います。

その時に、的確に応えていくことが、
増税問題をしっかりと世論で広めていく上で、
とても大切だと思います。

こうした認識にて、
別冊クライテリオン 消費増税を凍結せよ (表現者クライテリオン2018年12月号増刊)
の中には

Q&A
「増税やむなし」と言われたら、こう言い返せ
10の想定問答

というページを設けております。

この「10の想定問答」をご覧いただくと、
消費増税問題の全体像をご理解頂くこともできますし、
「別冊」の各論考の概要や関係もよく分かる―――
ということで、ここで改めて、ご紹介します。


Q1.
「戦後二番目の景気拡大期」
などと言われている今が、増税のチャンスではないのか。

A.
今の増税は最悪のタイミングです。
今、増税してしまえば、日本は再び
激しいデフレ不況に舞い戻ってしまいます。

「戦後二番目の景気拡大期」と言われているのは、
ただ単に、景気が上向いてきている期間が「長い」、
というだけで、その成長の勢いが二番目に強い、という話とは全く違います。

現下の状況は、全く勢いのない
経済成長がダラダラと続いているにすぎません。
しかも、そのダラダラと続く成長がもたらされているのは、
単に、世界経済の好景気を背景とした「輸出の増加」がメインの要因。

日本経済の勢いそれ自身は極めて脆弱。
こんな状況で増税をしても、それを乗り越えることはできません。

それ以前に、増税をする予定の2019年というタイミングは、
文字通り「最悪」のタイミングです。
「オリンピック特需」が終わり、「世界経済」が不景気になっていき、
しかも、働き方改革で残業代が5~8兆円程 、私たちの給料が減っていく時期でもあります。
だからそもそも、増税などしなくても「大型の景気対策」が必要なくらいに、
最悪の状況になっていくのが、来年という年なのです。

そんな状況で、日本経済の6割を占める消費に
「増税」なんてしてしまえば、
最悪の経済状況となるのは明らかです。

このあたりの状況についての詳しい議論は、
『なぜ今、「消費増税を凍結せよ!」、なのか?』
――以下、巻頭企画と呼称します――や、
本誌に寄稿された数々の経済学者、エコノミスト達の記事を参照ください。

各寄稿者がそれぞれの立場で、
それぞれの視点で、如何に来年の消費増税が
「危険」極まりないものであるのかを、冷静かつ客観的に議論しています。


Q2.
政府は「軽減税率」とかいろいろ対策するから、増税しても大丈夫じゃない?

A.
全く大丈夫ではありません。最悪の帰結をもたらします。

そもそも軽減税率が適用されるのはごく一部。
ポイント還元なども検討されていますが、それも、ごく一部。
しかも、短期間で終了してしまいますが、
10%の消費税は、来年以降、ずっと払い続けなければならないもの。
だから、軽減税率やポイント還元等の効果は、「限定的」なのです。

しかも、「10%」になるということで、
そのインパクトはさらに拡大することも、心理学の視点から指摘されています。
巻頭企画、および、川端祐一郎助教の本誌記事を参照ください)

さらには、先にQ1.への回答にもあるように、
来年の消費増税は「最悪のタイミング」でもあり、
その増税インパクトは恐ろしい水準に達することが真剣に危惧されます。

もちろん、消費増税のインパクトをはるかに上回る対策を行えば、
その被害を回避することはできます。
しかしその水準は、年間10兆円~15兆円の
追加的な補正予算を経済対策として
五カ年程度継続するというものでなければなりません
(例えば、「10%消費税」が日本経済を破壊する──今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』(藤井聡著)を参照ください。

そもそも増税をしなくても、「現下のデフレ」や「オリンピック不況」等の対策だけにでも
年間10兆円規模の対策を「2年程度」続けなければならないのですから)。
もしも、政府の対策が、その水準に到達しないのなら、
「増税しても大丈夫」とは絶対に言うことは出来ないのです。


Q3.
2014年に増税したけど、
今でも成長してる。やっぱり増税の影響は軽いんじゃないの?

A.
全く、軽くありません。
増税後、消費も賃金も激しく下落し、庶民は確実に貧困化しています。
にも関わらず「輸出」が15兆円も伸びたから、
その被害が見えにくくなっているだけです。

そもそも、14年以後「成長している」といっても
その成長率は極めて低い水準です。
『巻頭企画』でも紹介しましたが、
増税によって物価も賃金も、消費も激しく下落しています。

それにも関わらず、僅かなりとも成長しているのは、
誠に「ラッキー」な事に、世界経済の好景気を受けて「輸出」が伸びているからです。
図1に示したように、増税直後から、輸出が15兆円も伸びたのです。

そもそも消費税の総額は8兆円程度ですから、
その約「二倍」もの水準で輸出が伸びたわけで、
これが、消費税増税の被害を埋め合わせています。

例えば、本誌記事の中で元日銀副総裁の岩田規久男教授
「最近2年弱に渡って低飛行ながらもプラス成長が続いている のは、
ひとえに輸出の増加のため」と指摘している他、
経済学者の松尾匡教授や経済ジャーナリストの田村秀男氏も本誌で論じている通りです。


図1 輸出額(実質値)の推移


Q4.「成長させて税金増やす」って言うけど、
これから人口も減るし、増えなかったらどうするの。無責任じゃない!?

A.
断じて無責任ではありません。
そもそも人口が減少している国も含めた、日本以外のすべての国が成長しています。
日本が成長しないなんて、あり得ません。
そして、成長しなければ、貧困や格差は広がり、財政も悪化します。
だから「成長させる」と言わない政治こそ、無責任なのです。

図2をご覧ください。この図は、過去20年間の経済成長率のランキングです。
ご覧のように一つの例外を除いて、全ての国が「成長」しています。
ところが、一つだけがマイナス成長している国があります。

その国こそ、我が国日本。
成長率は、実にマイナス20%。

世界中には人口が減っている国もたくさんありますし、
いくつもの先進国がありますが、それらの国は全て成長しています。
にも関わらず日本だけ衰退しているのです。
これはつまり、日本が衰退しているのは
「人口が減っているから」でも「先進国だから」でもない、ということです。
日本だけが異常な状況にあるのです。

ではなぜ、日本だけが成長できない異常状況なのかと言えば、
それは、日本だけがデフレという「病気」にかかっているからです。
こんな「マイナス成長」の病理的 なデフレを放置しておく政治こそ、
無責任政治だと言わねばなりません。
ちなみに、本誌に寄稿されたほとんど全ての経済学者、
エコノミストの皆さんが共通して指摘
しているように、

財政政策と金融政策を適切に組み合わせれば、経済は成長します。
そして逆に、今このタイミングで消費増税をしてしまえば、
この「衰退」から脱却することができなくなります。

消費増税の悪影響を無視し、
日本だけが成長していないという
「真実」を無視し続ける学者やエコノミスト、
政治家の皆さん達こそが、「無責任」なのです。


図2 世界各国の過去20年間の経済成長率のランキング


Q5.
今、増税して少しでも借金を減らしておかないと、
将来にツケを残すんじゃないの?

A.
消費増税すると、かえって「ツケ」が拡大しまいます。

「消費増税」をすると、景気が悪くなり、税収それ自体が減ってしまいます。
例えば経済学者の飯田泰之准教授が本誌で指摘しているように、
「消費増税は消費の減少を通じて景況を悪化させ,
本来得られたであろう税収を失う」ことになります。
そうなると借金がかえって増え、「ツケ」が拡大します。

それどころか、本誌座談会でも議論されているように、
消費増税をすれば「成長」できなくなって、
今日よりもさらに貧困や格差が広がると同時に、
経済力、科学技術力や防災力、国防力といったあらゆる側面で国力が弱体化し、
アジアの貧国、さらには最貧国の一つになる―――

という悪夢のような未来が、
私たちの子や孫に「ツケ回される」ことになります。


Q6.
福祉とか社会保障のためには、
やっぱ、消費増税が必要なんじゃない?

A.
社会保障のために、消費増税は、必要ありません。
むしろ、消費増税をすれば、
安定的な社会保障が不可能になってしまいます。

高齢化社会を迎えるわが国で、
「社会保障」をどうしていくのは、
とても大切な議論です。
でもだからといって、
「消費増税すべきだ!」と考えるのは、
あまりにも短絡的。
というよりもむしろ、
「愚かの極み」と言わざるを得ません。

第一に、先に指摘したように性急な消費増税で、
かえって税収が減り、
将来の社会保障が難しくなってしまいます。

あるいは、経済評論家の島倉原氏が指摘するように、
「生活に困窮している人」それ自身を減らすのが
社会保障政策の目的なのですから、
格差と貧困を拡大する消費増税など
あり得ない選択だともいえます。

第二に、本誌の座談会の中で
元財務官僚で経済学者の高橋洋一教授が指摘するように
「社会保障」のための財源に「消費税」を当てるのは、
「世界の非常識」。
おおよそ社会保障制度は、
飯田泰之准教授が指摘しているように
「世代で閉じた社会保障制度」にしておかなければ、
その持続性が保てません。

にも関わらず長期的な展望も無しに、
目先の財源確保で消費増税をしてしまえば、
経済が不安定化し、将来世代の社会保障財源が、
ますます無くなっていきます。

だから財源確保のためには、
(例えば、島倉氏が主張するように)
「成長」こそが必要なのであり、
(例えば、エコノミストの会田氏や岩田氏が論じたように)
大局的視点の下で「国債」を発行しつつ、
(例えば、高橋氏が指摘したように)
保険制度を見直すことが必要です。
そして、消費増税の代わりに、
例えば塚崎公義教授が指摘する所得税増税や、
岩田教授が指摘した相続税の見直しなどを行えばよいのです。

第三に、消費増税が行われてきた背景には、
法人税減税が繰り返されてきたという
歴史的背景があります。例えば、
経済学者の菊池英博教授が指摘しているように、
法人税が縮小してきた減税分はおおよそ、
消費税増税による増収分とほぼ同水準。

つまり
「法人税減税のために空いた穴埋めのために、
消費税が増税されてきた」
のです。だから、このバランスを見直し、
消費税のかわりに法人税を
増税すべきであるという議論は当然成立します。

このように福祉や社会保障を充実したいなら、
成長すべきであり、
一時的な国債発行の可能性も見据えながら
社会保障制度それ自身をみなすべきであり、
税制そのものを見直すべきなのです。

にも拘わらず、
目先の財源確保のために焦って消費増税をしてしまえば、
成長できず、かえって日本人の社会保障環境は
「最悪」なものとなってしまいます。


Q7.
欧州では20%以上の国も多いんだから、
10%にするくらい当たり前じゃない?

A.
当たり前でも何でもありません。
そもそも日本は、「税率」それ自身が低くても、
総税収に占める消費税の割合は諸外国よりも
「高い」のです。
だからこれ以上税率を上げれば、
「世界で最も消費税に依存する国家」
になってしまいます。

経済学者の菊池英博先生の本誌記事でも紹介されている通り、
額面上の「税率」は、イギリスやドイツ、
イタリア、スウェーデンの方が圧倒的に高く、
20%前後~25%という水準で、
仮に日本が10%にしたとしても、
その半分前後の税率しかない、と言うことができます。

しかし、「総税収に対する消費税収の割合」に着目すると、
日本が10%に増税すれば、
それらの国々よりも高い水準になってしまいます。

最も額面上の税率が高いスウェーデンでも、
「総税収に対する消費税収の割合」は
18・5%に過ぎない一方で、
日本は37%にまで達してしまいます。

こうなっている理由は、
日本だけがデフレ不況なので
所得税や法人税が少ないという事や、
諸外国では食料品などについて
消費税率「0%」という大胆な軽減税率が
適用されている事などが挙げられますが、
いずれにしてもこの様な状況で10%増税をすれば、
日本だけが異様に消費税収にだけ依存する国家になってしまいます。


Q8.
どっかの学者が、
「消費増税で将来世代の不安が無くなって、
かえって消費が増える!」
って言ってたよ。
そういうこともあるんじゃない?

A.
あり得ません。
むしろ増税すれば、
将来が不安定になり、デフレが深刻化し、
人々はますます不安が大きくなって、
消費を減らしてしまいます。

確かに、私たちは将来不安があれば、
消費を控える効果はあります。

しかし、本誌で岩田規久男教授
経済学的な視点から指摘したように、
「日本の財政状況を心配して、
消費を抑制している人は、
いたとしても、きわめてまれな人」
です。ですから、
「消費税によって、財政が改善するから、
皆が安心して消費を増やす」
という現象は現実的にはあり得ません。

むしろ私たちが将来に対して
不安な気持ちを持っているのは、「デフレ不況」
(消費者にとっての「所得」が下落し続けていく状況)
が続いているから。

だからデフレ不況が続く限り、
自分たちの将来の所得は上がらないだろうし、
それ以前に失業することすらあるかも知れない―――
という不安におびえ続けるのです。
それどころか、
消費増税はデフレを深刻化させますから、
ますます不安を高め、
消費はさらに縮小していくことでしょう。


Q9.
「増税反対」って言ってる人たちって、
どうせ「民衆の受け狙い」で言ってるだけじゃないの?

A.
あり得ません。
日本の経済や財政のために必要な
「増税凍結」という方針が、
たまたま、
民衆に支持されているにすぎません。

確かに、民衆は
(例えば、評論家の小浜逸郎氏が論じているように)
「増税反対」を支持するであろうと予期されます。

そして、「民衆が支持するものが間違っている」
ということも当然あり得ます。

そして、中には「民衆の受け狙い」で
増税反対を主張する政治家もいることでしょう。

しかしだからといって、
「民衆が支持するものは、『常に』間違っている」
とは当然言えません。

そもそも「民衆が支持するものは、『常に』間違っている」
というのなら、
一刻も早く民主主義を辞めるべきだ、
ということになりますよね。

そういう議論はさておき、そもそも、
それぞれの政策が正しいかどうかは
民衆人気とは無関係に
客観的な分析に基づいて判断すべきもの。

そして、本誌に寄稿された専門家の皆さん
口を揃えて言うように、例えば
「データという事実」に基づいて論じた三橋貴明氏

「現在の日本は消費税の増税どころか、
減税、あるいは『消費税廃止』を
検討しなければならない局面である」

と断じ、
野口旭教授が経済学に基づいて
「拙速な消費増税によってその後の5年10年を無駄にする」
と主張し、さらには経済学者の飯田泰之氏
『財政再建』の視点からすら

「消費増税は消費の減少を通じて
景況を悪化させ,本来得られたであろう
税収を失うだけではない.
景況の悪化による政権の安定性の低下は
より大きな財政の課題である社会保障改革を遅らせ,
財政危機の深刻さを増大させる」

という危機があると指摘している様に、
「このタイミング」での消費増税は
「経済」の視点からも「財政」の視点からも、
そして「実証的」にも「理論的」にも
最悪の愚策でしかないのです。

そうした「消費反対論」が、
たまたま「民衆の支持を得ているから」
というだけの理由で
「民衆の受け狙いだ!」と批判するのは、
無根拠な「誹謗中傷」であり、
単なる「濡れ衣」に過ぎないと言えるでしょう。

・・・

以上、これで10の想定問答の内、
9つまでご紹介しましたが、
あともう一つのQ&Aは

Q10.
新聞やテレビで、
学者や専門家が消費増税すべきだって言ってるけど、
彼ら、嘘ついてるの?

というもの。これについてお答えしてると、
また長くなってしまいますので・・・
次回は、このQ10について、
じっくり、たっぷりお答えしたいと思います。

いずれにせよ、
以上の「回答」をさらに詳しく知りたい、
という方は、
別冊クライテリオン 消費増税を凍結せよ

を手にとって頂いて、それぞれの論者の記事を
じっくりとお目通しください!
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