宮崎正弘氏のメルマガより
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成28年(2016)2月5日(金曜日)弐
通算第4801号
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シャープを中国に売り渡して良いのか
しかし鵬海は買収金額の7000億円を用意できるのか?
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今後一ヶ月以内に結論が出る。
シャープが中国資本に乗っ取られるのか、日本の再建機構(「産業革新機構」)で落ち着くのか?
前者鵬海の買収金額は7000億円、後者は3000億円である。じつは1月末に、シャープは「産業革新機構」の買収案をいったん受け入れたのだが、鵬海が金額を上積みし、なおかつ条件をシャープ側の要求に沿ったものにしたからである。

5日に急遽来日した鵬海の郭台銘社長は、四つの条件を示した。
(1)事業売却はしない
(2)シャープのブランドは守る
(3)従業員の雇用も守る
(4)首脳陣の退陣は求めない

騙されてはいけない。約束をすぐに反古にするのは中国人の得意芸、朝飯前のモラル破り。守られるのはブランドを維持するという項目くらいであろう。暖簾代は、鵬海が世界的にはまだ名前をしられないからでもある。

しかしもっと根本的な疑問がある。
はたして7000億円という大金を鵬海精密工業は用意できるか、いなか。出来ないとすれば背後に中国の工作資金の目処があるのではないか? つまりハイテク技術の合法的取得と優秀なエンジニアの確保である。
あるいは既に銀行団に対して、これから買収するシャープの資産を担保に金を借りるという手口もある。

ドライな米国のM&A(企業合併・買収)戦略には、部門売却という戦術がある。これは儲かる事業部門を買収後、高値でばら売りし、買収金額を上回る収入を得たあとは、本体も解散させるという冷酷な遣り方。欧米では合法である。

日本の新聞は「台湾の」鵬海と書いているが、経営者の郭台銘が台湾人であっても、すでに主力工場は中国にあり、ピーク時には120万人の中国人を雇用していた。

鵬海は主としてスマホ部品、液晶パネルの生産をしており、アマゾンが最大の顧客だが、その工場は「奴隷工場」と悪名が高い。
嘗て深センの工場では9人から11人が飛び降り自殺をして、企業モラルが問われた。工場建物の吹き抜けに金網やネットを張って、従業員の自殺を防いだ。

[ip5_heading type=”h3″ style=”subheader–medium” title=”▼「趙家のひとびと」とは?” ]

「趙家の人々」という隠語があるように、中国で台湾人企業が大成功を収めている背景には中国共産党とのなにがしかの密約が存在するはずである。
「趙家の人々」(高級幹部のファミリー)の利益にならない、共産党との連携がない民間企業は、そうしなければ必ず潰される。

旺旺のように新潟の岩塚製菓のノウハウを学び、せんべい、菓子などで成功した台湾企業は大陸に進出し、いまでは中国共産党の代理人になりさがっている。
台湾で何をしたかといえば、『中国時報』を買収して北京と同じ論調のメディアとし、さらに尖閣問題では、蘇澳港の漁船団を組織して尖閣付近へ海上デモを組織化したときの胴元だった。

つまり鵬海精密工業は純粋な民間企業、或いは台湾企業とみるのはたいそう危険である。共産党の息がかかり、日本の優れた技術を合法的に取得するためにシャープ買収に熱を燃やしているのである。

もう一つは買収資金である。
非常手段として中国国有銀行から融資を受け、人民元が高い裡に手に入れようとする思惑は見え見えだが、もし社債発行、もしくは増資という手だてで買収資金を調達するとなれば、社債の格付けはB以下になる可能性が高い。

先日も、中国一の富豪・王健林の経営する企業(大連万達集団)の社債はS&P社がBランクに格下げした(「トリプルBプラス+」から「トリプルB」。つまり投資不適確に近い格付け)。
欧米、ウォール街は中国企業の先行きを真っ暗と認識しているからである。

万達集団はハリウッド映画(レジャンダリーエンターティンメント)、映画館チェーンなど海外の企業を「爆買い」してきたが、有利子負債は巨額に達しており、さらに本業の不動産業不振で売り上げが四割落ち込んでいるからだ。

[ip5_heading type=”h3″ style=”subheader–medium” title=”▼それにしても、中国企業の海外老舗企業の「爆買い」はなぜ続くのか?” ]

さはさりながら、中国企業の海外老舗企業の「爆買い」はなぜ続くのか? しかも粗雑で拙速で、何かに取り憑かれたような買収である。

COSCO関連企業はギリシアのピレウス港を買収し、中国化工はスイスの大手農薬「シンジェンダ」を買収した。
ほかにも安邦保険はNYの象徴ウォルドルフ・アストリアホテルを、中国化工はイタリアのタイア「ピレリ」も買収した。

紫光集団は半導体大手のマイクロン・テクノロジーとディスク装置のウエスタン・デギタルを買収し、ハイアールはGEの家電部門を。

最大の理由は中国企業の焦燥、つまり人民元下落、このまま行くと暴落するが、その前に、しかもドルと人民元が交換できる裡に買ってしまえというのが通底する心理ではないのか。